喫茶店ブギ
2012.03.29
長きにわたった真冬並みの寒さもやふやふ明け、麗らかな春の陽気につつまれておりますこの頃、
皆様、暫しご無沙汰致しておりました、、、真珠婦人で御座います
友人の結婚披露宴出席とお爺ちゃまの一周忌が重なり、十日ほどお里帰り致して居りました
かねてから、わたくしの郷土:美濃の国はじめ東海地方の摩訶不思議世界をご紹介して参りましたが、
本日は特に 「モオニング文化」なるものに再スポットをあてて皆様を異界へと誘いたいと存じます・・・
八っつァん、喫茶店の豪華なモオニングセットといへば、 おみゃあさん そりゃあ名護屋でせふ、、、
ご隠居 何言っとるの、 寧ろ岐阜やら一宮を侮ったらいかんでよ・・・
さふなのであります、実は全国的に見ましても 岐阜市とお隣の一宮市は喫茶文化の大激戦区なのであります!
一世帯あたりの年間喫茶代に至っては、岐阜市が14110円が堂々の全国津々浦々において堂々第一位を獲得、
二位の名古屋市14016円には肉薄するも、三位東京23区6039円、全国平均5181円を断トツに突き放しての結果なり
(朝日新聞に拠る)
さて、ここで モオニングとは何ぞや?と首を傾げるアナタに、おこがましくもチト手解き致しませふ・・・
モオニングセットと名称が付きますと、お飲み物に料金を足しトオスト等が付く形式、東海以外で主流であります
一方、モオニングサアビスとなりますと お飲み物のお代のみで諸々が自動的に付属される仕組みでして、、
東海地方の多くの喫茶店にて 僅か350~500円ぽっちで提供される恐るべき品数に面食らふ他県のお方も多いハズ
では、ここでこの度わたくしが実体験した 世にも珍妙なるモオニングの一例を御覧頂きませふ・・・
所は岐阜市、長良川程近い場所に佇む知る人ぞ知る銘店:喫茶「あいりす」にて

トオスト一枚にゆで卵、サラダにゼリー 果物7種、〆は名物の胡麻だれみたらし団子 ときたもんだ!
本来メニュウ表では主役である筈の珈琲は 寧ろ添え物として隅のほうに控え目に鎮座ましまして、
最早どの順番で頂いたら宜しいものか 考えあぐねているうちに当の珈琲が冷めてしまひさふな豪華振り
これで450円(税込)ポッキリと言ふのですから 印度人だけでなく同県出のわたくしも吃驚しゃっくりであります
平日午前中にも関わらずひっきりなしに訪れるお客様の姿に、ともすれば450円でこれだけ出しているのだから、
と奢りが出さふなものですが、「あいりす」の店主夫婦の気さくで細やかなお気遣いが人また人を呼ぶのでせふ
以上は極端な事例ではありますが、平均的に見られるモオニングセットのお品書きとしましては、
ゆで卵(何故か必須)、サラダ、トオスト(バターかジャム、時には小倉に生クリイムが載ることも!)、
その他はお店各々により 手作りヨオグルトやら味噌汁やらお握りやら小海鮮丼やら茶碗蒸しやら焼きそばやら・・・
東西の狭間で雑食文化の花開いたこの地方ならではの味覚感覚による審美眼が選んだ「おもてなし」が添えられます
時には、「夜までモオニング営業中」・・・等と 最早理解の範疇を超えた宣伝文句を謳ふ有難いお店も
ここで、東海地方のある典型的な家族の日曜の朝の過ごし方をご紹介することにしませふ、、、
朝9時前、少々眠い目を擦りつつ一家は連れ立って車に乗り最近話題の喫茶店へ(または徒歩で近所の馴染み店へ)…
各々新聞に雑誌、絵本に漫画やらを手に取り、注文が済むと一つの机を囲み 暫し読み物に目を落とし静寂の後、
賑々しく運ばれたるモオニングセットを前に誰からともなく口を開き、気付けば笑顔に話の花開く
思春期真っ只中のにきび面少年も、美味しいものを前に思わず引きつりながらも顔がほころぶ団欒のひととき
・・・ さふ、生活多様化から孤食の進む当世に於いてなほ 喫茶店文化は消えかかった家族団欒を支えて居るのです
また、こちらも絶滅危惧種「ご近所付き合い」も 最後の楽園か:東海地方では喫茶店を通じ生き長らえている模様
では、そもそも何故にこの地方にて特異な文化が花開いたのか、、時は昭和30年代にまで遡ります
それは戦後の復興から高度成長期・・・ひと織で一万円程儲かったといふ所謂「ガチャマン景気」の頃、
愛知や岐阜で栄えた繊維産業の業者たちは 機織の音が五月蝿く埃っぽい事務所での商談を嫌い、喫茶店を利用・・・
愛知にて常連客向けにゆで卵にピイナッツやらを出すもてなしが次第にモオニングとして定着したのが始まりとも
羽振りのよかった愛知の業者が岐阜の柳ヶ瀬に喫茶店やバアを開き、サアビスに拍車がかかったといふ所以ださふ
当の繊維業界は亜細亜勢に押されめっきり衰退 尾張名古屋は今や城でなく車(トヨタ)でもつ、と思われるお方、
それだけではありませんゾ、、、 ご旅行にご出張の際 しかと御自身で一目一味 お確かめを・・・
そこには所謂「お洒落カフエ」「隠れ家風カフエ」とは一味違う、気負わない「ザ・モオニング」すたゐるが御座います
不思議と大手珈琲チェーン店は東海の土地に根付かないさふで、これも個々の店が日々凌ぎを削っているからか
「モオニング発祥の地」と言われる一宮市では約700件の喫茶店がひしめき合い、町おこしにも一役買っているさふな
なんでも、「モオニング選手権」なるものも開催されており、飛ぶ鳥を落とす勢いは暫し止まりさふもありません
我が母が、帝都へ参った際に喫茶店にて珈琲を注文、待てど暮らせどモオニングセットが出てこず、
痺れを切らし珈琲が冷めると同時にはたと目が覚め・・・ 「あの文化は我が国共通の常識ではなかったのか」
そんな逸話はさておき、我が愛すべき東海地方では今朝もまた、何事もなかったかのやふに
喫茶店に老若男女が集い、ホットサンドと赤だしとをかわるがわるすする事でありませふ、、 異文化万歳!
笠置シズ子女史がご存命なら、きっと仰ったでありませふ、、「わて ホンマによういわんわあ」

Pearl